「ラスト・エンペラー」の録音の時、姜小青さんと知り合った。中国の楽器の演奏かが必要だったので知り合いに相談したら来たのか彼女だった。とても美しく、イノセントな感じがした。なんとなくぼくたちが持っている汚れなき中国のイメージと重なった。ぼくにとって中国というのは文化大革命の国だったのだ。 しかし姜さんと話をして驚いた。彼女は小さいころからピアノと習っていたのだそうだ。彼女の幼少のころといえば、まさに文革の真っ最中。そんな時期に中国でピアノという西洋の楽器を習う環境があったとは。こんなこと言ったら無知と笑われるだろうが「ああそうか、10億の民が一丸となって毛沢東主義に邁進していたわけではないんだ」という素朴な驚き、メディアのコントロールは恐ろしい。 少しづつ日本と中国の関係も変わってきた、姜さんもまだ日本にいてくれる。彼女たちが住めなくなるような日本にしてはいけない。姜さんたちが自由に日本や他の国々に出かけて行き、素晴らしい演奏を聴かせ続けてくれることを願っています。 また将来、姜さんと一緒に仕事をする機会があると思います。ぼくはこの世界最高の演奏家の一人を決して忘れることはないでしょう。 坂本龍一 北京中央音楽院大学に大学史上最年少の１５才で入学。民族器楽独奏金賞、北京芸術賞などを獲得後、山東、河南、浙江、潮州、客家の古典五大流派を習得し、天才奏者の名をほしいままにした。映画「ラストエンペラー」のサウンド・トラックへの参加をきっかけに坂本龍一のツアーに抜擢され、海外でも高い評価を獲得。 ファーストＣＤ「輝弦」（ＶＩＣＴＯＲ）のほか、サントリー・ウーロン茶のＣＭソング（ＶＩＣＴＯＲ、東芝ＥＭＩ）では可憐な歌声も披露。市川猿之助などの舞台音楽からテレビのテーマまで幅広い活躍を続けるかたわら、日本各地での精力的なコンサート活動、また古筝の教授などを行なっている。 今回のＣＤは初めての古筝独奏のアルバムとして、スタジオ録音でありながらギミックを廃したワン・テイク録音に挑み、ライブを凌ぐ緊張感に満ちた仕上がりとなった。柔軟繊細なメロディと硬質のサウンドとの微妙なバランスは、単なる古典音楽の枠を超えて、同時代音楽としても聞いて欲しい意欲作である。 プロデューサー・星川京児